音楽と私

全国大会選考委員の声楽家 大倉由紀枝さんにお聞きしました。 妥協することなく、命がけで愛してた「歌を歌うこと」

子どもの頃に出会った合唱が、声楽家としての私の「原点」。

初めてたくさんの人の前で歌を歌ったのは、小学校4年生のとき。全校生徒から選ばれて、学芸会のステージで「とんび」の独唱をしたんです。もちろん緊張はしましたが、歌い終えて大きな拍手をもらったときの快感が忘れられなくなって(笑)。それで、小さい頃から歌が好きだったこともあって、すぐに学校の合唱クラブに入部しました。それから大学に入るまでは、ずっと合唱一筋。国立音楽大学に行くことを決めたのも、「カンマー・コール」(国立音大の合唱サークル)に入部したかったからでした。大学入学後、師事した先生の影響でソロの道を歩むことになりましたが、実は合唱こそが声楽家としての私の原点なんです。

その後の人生において、「歌を歌うこと」は私にとって何よりも大切なものになりました。命がけで歌を愛してきたので、その部分では決して妥協したくなかったんです。その気持ちは今も変わらず持ち続けています。夫と子供には申し訳ないなって常々思っていますが(笑)。
今回の震災では、東北地方にお住まいの方々はもちろんのこと、日本中の多くの人が心に傷を負いました。私自身いわき出身ということもあり、今後はそういう人たちが少しでも癒されるような、あるいは前向きな気持ちになれるようなメッセージを、歌を通じて伝えていきたいと思っています。

音楽は、いろいろな人生経験を通して精神的により深く理解できるもの。

合唱にはみんなで心を一つにして歌うことによって生まれる、特別なプラスアルファがあるんです。「ハーモニー」という言葉がありますが、それは単にひとりひとりの歌声を足し算することではありません。響きや歌い方を工夫することで、歌の持つ力は何乗にもなります。ハーモニーの美しさに感動する歓びは、きっと合唱をしているすべての人が味わったことがあるでしょうし、それを経験したら、もう合唱は辞められなくなります(笑)。

人間って年齢を重ねることで肉体は衰えてきますし、当然、歌声も若い頃と比べればパワーが不足してきます。ただ、その反面、いろいろな人生経験を通して精神的により深く音楽を理解するという、また別の意味での成長を成し遂げることができます。いつまでも若々しくハリのある声を維持するためには、日頃の歌の練習や肉体的なトレーニングはもちろん、心を常に健康に保ち、明るく前向きに生きることもすごく重要だと思います。

声楽家(ソプラノ) 大倉 由紀枝(おおくら ゆきえ)さん
国立音楽大学声楽科卒業。東京芸術大学大学院オペラ科修了。第13回民音コンクール第1位受賞。イタリア、ミラノに留学。帰国後、「カプレーティ家とモンテッキ家」のジュリエッタでデビュー。数多のオペラ出演の中でも「フィガロの結婚」伯爵夫人、「アラベッラ」タイトルロール、「ばらの騎士」元帥夫人、「コシ・ファン・トゥッテ」フィオルディリージ、「ドン・ジョバンニ」ドンナ・アンナとドンナ・エルビーラ、「蝶々夫人」タイトルロール、「鹿鳴館」影山伯爵夫人朝子役で主演し絶賛された。また、コンクールの審査員や後輩の指導にも積極的に携わっている。国立音楽大学、大学院兼任教授、玉川大学非常勤講師。二期会会員。

※本内容は、2011年時点のものです。

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